大岡昇平が作者の不朽の名作『武蔵野夫人』。この小説のあらすじや、物語を彩る個性的な登場人物、そして多くの読者に衝撃を与えた結末について、詳しく知りたいと思っていませんか?
また、物語の重要な舞台となった恋ヶ窪の美しい情景や、主人公にモデルはいたのかという創作秘話、さらには様々な読者の感想も気になるところでしょう。この記事では、それらの情報に加え、青空文庫で読めるのかといった実用的な疑問まで、徹底的に掘り下げて解説します。
- 武蔵野夫人の詳しいあらすじと結末
- 物語を彩る主要な登場人物の関係性
- 作品の舞台やモデルになった人物の背景
- 読者の感想や無料で読む方法
武蔵野夫人の小説あらすじを徹底解説

- 物語の具体的なあらすじ
- 物語を動かす主要な登場人物
- 寄せられた様々な読者の感想
- 青空文庫での入手方法について
- 作者・大岡昇平の人物像
物語の具体的なあらすじ

物語の舞台は、戦後間もない東京西部の武蔵野、「はけ」と呼ばれる自然豊かな崖線地域です。
主人公の秋山道子は、亡き父が建てた家で、フランス語教師の夫・忠雄と暮らしていました。彼女の穏やかな日常は、いとこである大学生・宮地勉が家に下宿するようになってから、静かに変化していきます。道子と勉は次第に強く惹かれ合いますが、道子の貞淑な性格が二人の関係を押しとどめていました。
一方で、道子の夫・忠雄は、近所に住む大野富子と不倫関係になろうと画策します。富子の夫・英治の出張中、忠雄と富子は密会を重ねるのです。
ある日、キャスリーン台風が関東を襲った夜、散歩に出ていた道子と勉はホテルで一夜を明かすことになります。しかし、道子は最後まで一線を越えることを拒みました。この出来事をきっかけに、勉は道子への想いを抱えたまま家を出て、五反田で一人暮らしを始めます。
その後、大野英治の事業失敗をきっかけに、二組の夫婦の人間関係と金銭問題は複雑に絡み合い、こじれていきます。忠雄は金銭問題と双方の不貞を理由に道子に離婚を迫り、家の権利書を持ち出して富子と家出をしてしまうのです。
全てを察した道子は、愛する勉に財産の一部を残すための遺書を書き、睡眠薬を飲んで自ら命を絶ちます。家に帰ってきた忠雄が発見したとき、彼女はうわごとで勉の名を呼びながら息を引き取るのでした。
物語を動かす主要な登場人物

『武蔵野夫人』の物語は、主に5人の男女の複雑な関係性を軸に展開します。それぞれの人物像を理解することで、物語をより深く味わうことができるでしょう。
人物名 | 年齢 | 人物像・役割 |
---|---|---|
秋山 道子 | 29歳 | 本作の主人公。貞淑で古風な考えを持つ人妻。夫との関係に悩みながらも、従弟の勉に生まれて初めての恋心を抱く。 |
秋山 忠雄 | 41歳 | 道子の夫で私立大学のフランス語教師。一夫一婦制を不合理と考え、隣人の富子と不倫関係になる。 |
宮地 勉 | 24歳 | 道子の従弟の大学生。学徒動員でビルマから復員した青年。道子の家に下宿し、彼女と惹かれ合う。 |
大野 富子 | 30歳 | 道子の従兄の妻。奔放で妖艶な魅力を持ち、忠雄や勉を誘惑する。道子とは対照的な女性として描かれる。 |
大野 英治 | 40歳 | 富子の夫。事業に成功した戦争成金だが、後に没落。妻の不貞を知りつつも黙認している。 |
登場人物の関係性のポイント 道子と富子は、「貞淑さ」と「奔放さ」という対極的な女性像として描かれています。また、忠雄の抱くリベラルな恋愛観と、復員兵である勉の心に潜む虚無感が、物語に複雑な陰影を与えているのです。
寄せられた様々な読者の感想

『武蔵野夫人』は発表から70年以上経った今でも多くの読者を惹きつけてやみません。読者の感想は様々で、この作品が持つ多面的な魅力を示しています。
評価されるポイント
多くの読者が称賛するのは、登場人物たちの心の揺れ動きを克明に描いた緻密な心理描写です。特に、道子が勉への恋心を自覚しながらも、倫理観との間で葛藤する様子は、多くの共感を呼んでいます。
また、物語の舞台である武蔵野の自然描写の美しさも高く評価されており、「はけ」と呼ばれる崖線の風景が、登場人物たちの心情と巧みに重ね合わされている点も魅力とされています。
賛否が分かれるポイント
一方で、登場人物たちの行動、特に主人公・道子の行動に対してもどかしさを感じるという声も少なくありません。「なぜもっと素直に行動しないのか」「結末があまりにも救いがない」といった感想も見られます。
通俗的な不倫小説と捉えるか、戦後の価値観の変遷を描いた純文学と捉えるかで、評価が大きく分かれる作品と言えるでしょう。この奥深さこそが、長く読み継がれる理由なのかもしれませんね。
作者・大岡昇平の人物像
『武蔵野夫人』の作者である大岡昇平(おおおか しょうへい)は、1909年生まれの日本の小説家であり、フランス文学者としても知られています。彼はスタンダールの研究や翻訳を手がけるなど、ヨーロッパ文学に深い造詣を持っていました。
彼の作風に大きな影響を与えたのが、第二次世界大戦での戦争体験です。召集されてフィリピンのミンドロ島へ送られ、そこで米軍の捕虜となった経験は、彼の代表作の一つ『俘虜記(ふりょき)』に克明に描かれています。
『武蔵野夫人』は1950年に発表され、戦後を代表するベストセラーとなりました。この作品は、フランスの作家レーモン・ラディゲの『ドルジェル伯の舞踏会』を手本にした心理小説であり、緻密な心理描写と戦後の社会情勢を背景にした人間模様が高く評価されています。
大岡昇平の作品は、自身の戦争体験からくる人間の極限状況への洞察と、フランス文学から学んだ心理分析の手法が融合しているのが特徴ですね。
青空文庫での入手方法について
「名作を無料で読みたい」と考え、青空文庫での公開を期待する方も多いかもしれません。
しかし、2025年現在、『武蔵野夫人』は青空文庫には収録されていません。
日本の著作権法では、著作者の死後70年間、著作権が保護されると定められています。作者である大岡昇平は1988年に亡くなっているため、著作権の保護期間が満了するのは2058年末となります。
青空文庫で読むことはできませんが、『武蔵野夫人』は新潮文庫の定番作品として、現在も全国の書店やオンラインストアで簡単に入手可能です。電子書籍版も配信されているため、手軽に読み始めることができます。
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読み解く武蔵野夫人の小説あらすじと背景

- 舞台となった恋ヶ窪の情景
- 主人公道子のモデルは実在したか
- 戦後の価値観を描いた作品のテーマ
- 溝口健二監督による映画版との違い
舞台となった恋ヶ窪の情景

『武蔵野夫人』の物語において、「場所」は単なる背景以上の重要な役割を担っています。特に、東京の国分寺市から小金井市にかけて広がる国分寺崖線(こくぶんじがいせん)、通称「はけ」が物語の中心舞台です。
「はけ」とは、多摩川が武蔵野台地を削ってできた崖のことで、斜面には雑木林が広がり、崖下からは豊かな湧き水が生まれます。作中では、この清らかな水が流れる小川や、欅(けやき)や樫(かし)の木々が茂る風景が、登場人物たちの心情を映し出すかのように美しく描かれています。
中でも象徴的なのが、道子と勉が二人で散歩し、「恋ヶ窪(こいがくぼ)」という地名に出会うシーンです。それまで自身の感情に蓋をしていた道子が、「恋」という言葉を冠した地名に衝撃を受け、勉への想いが紛れもない「恋」であることを自覚する、非常に重要な場面となっています。
モデルとなった場所は今も残る 物語で道子たちが暮らした家のモデルと言われているのが、現在の小金井市立「はけの森美術館」です。この周辺を散策すれば、小説で描かれた武蔵野の面影を感じることができるでしょう。
主人公道子のモデルは実在したか

『武蔵野夫人』の主人公・道子の人物像には、実はモデルとなった女性がいたと言われています。
その女性の名は坂本睦子(さかもと むつこ)。彼女は大岡昇平だけでなく、評論家の小林秀雄や詩人の中原中也といった、昭和を代表する文士たちと深い交流があった人物です。
彼女を知る人物の一人、随筆家の白洲正子は、坂本睦子を「魔性」と表現するほどの魅力的な女性だったと語っています。そして、小説で描かれた道子はあまりに平凡で、睦子の本当の魅力が描かれていない、と批評しました。
作者である大岡昇平は、坂本睦子に長年想いを寄せていたとされ、彼女が小説の道子のように自ら命を絶った際には、その死を悼む文章を残しています。
作者の個人的な体験が色濃く反映されている一方で、小説はあくまでフィクションとして再構築されています。この現実と創作の間の絶妙な距離感が、作品にさらなる深みを与えているのかもしれません。
戦後の価値観を描いた作品のテーマ

この小説が書かれた1950年は、日本が戦争の敗北から立ち直ろうとしていた、まさに価値観の転換期でした。
物語の背景には、姦通罪(かんつうざい)が廃止されるなど、戦前の家父長制的な道徳が崩れ、個人の自由な意思が尊重され始めるという社会の変化があります。道子の夫・忠雄が「一夫一婦制は不合理だ」と主張し、堂々と不倫を正当化しようとする姿は、この新しい時代の空気を象徴しています。
この作品は、そうした新しい価値観と、道子が守ろうとする古風な「貞淑」という道徳観との対立を描いています。どちらが正しく、どちらが間違っているということではなく、時代の大きな変化の波に翻弄される人々の苦悩と悲劇を浮き彫りにしているのです。
また、復員兵である勉の存在は、戦争が人々の心に残した癒えない傷や虚無感を象徴しており、単なる恋愛小説にとどまらない、深い社会性を持った作品となっています。
溝口健二監督による映画版との違い

『武蔵野夫人』は、発表の翌年である1951年に、日本映画界の巨匠・溝口健二(みぞぐち けんじ)監督によって映画化されています。
主演の秋山道子役を田中絹代、夫の忠雄役を森雅之が務めるなど、当時のスター俳優が顔を揃えました。映画は88分という時間の中に、原作の複雑な人間模様を凝縮して描いています。
小説の最大の特徴が緻密な心理描写であるのに対し、映画は俳優の表情や仕草、そして卓越したカメラワークによって登場人物の感情を表現しようと試みています。もちろん、上映時間の制約から、小説で詳細に語られる内面の葛藤の一部は省略されています。
どちらから楽しむ? 原作のファンからは「道子の心理描写が足りない」といった声がある一方、映画独自の芸術性を高く評価する声も多く、近年では溝口監督の代表作の一つとして再評価が進んでいます。小説を読んでから映画を観るか、その逆かによって、それぞれ異なる発見があるでしょう。
「武蔵野夫人」小説のあらすじについて総括
今回の記事の内容をまとめます。
- 武蔵野夫人は大岡昇平による戦後のベストセラー小説
- 舞台は東京西部の国分寺崖線「はけ」と呼ばれる地域
- 貞淑な人妻・道子と復員兵の従弟・勉の悲恋が中心
- 道子の夫・忠雄と隣家の妻・富子の不倫関係も描かれる
- 登場人物たちの複雑な心理描写が作品の大きな魅力
- 道子は夫への貞節と勉への恋の間で深く苦悩する
- 作者の大岡昇平は自身の戦争体験も作品に反映させている
- 物語の舞台「恋ヶ窪」は登場人物の恋を象徴する場所
- 主人公・道子には坂本睦子という実在のモデルがいたとされる
- 戦後の価値観の変化や道徳観の揺らぎが重要なテーマ
- 1951年には巨匠・溝口健二監督により映画化もされている
- 現在、青空文庫では読むことができず著作権保護期間中である
- 読者の感想は心理描写への高評価ともどかしさが混在している
- 新潮文庫などで現在も読み継がれる不朽の名作である