「ゆうべ、またマンダレーに行った夢を見た」という有名な一文で始まる、ダフネ・デュ・モーリアの名作『レベッカ』。この記事では、これから『レベッカ』を読もうと考えている方や、物語の概要を知りたい方のために、作品の魅力を深掘りしていきます。
多くの方が気になるレベッカの小説のあらすじはもちろんのこと、主人公は誰なのか、個性あふれる登場人物の関係性、物語の核心に迫る見どころや深い考察、さらには有名な映画と原作の違いについても解説します。
また、多くの読者の感想や、作者ダフネ・デュ・モーリアの人物像、物語の舞台であるマンダレーのモデルがどこにあるのか、そして他にもダフネ・デュ・モーリアのおすすめ本はあるのか、といった点まで網羅的にご紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
- 小説『レベッカ』のあらすじや登場人物が分かる
- 作品の見どころや映画と原作の違いを理解できる
- 作者の人物像や舞台のモデルなど背景知識が深まる
- 読者の感想や考察を通して新たな魅力を発見できる
名作『レベッカ』小説のあらすじと基本情報

- まずは物語のあらすじをネタバレなしで
- 主人公は誰?主要な登場人物を紹介
- 作者ダフネ・デュ・モーリアの生涯
- 美しい屋敷マンダレーのモデルはどこ?
- 夢中になる!読者の感想と評価
まずは物語のあらすじをネタバレなしで

物語は、孤児で内気な若い女性「わたし」が、裕福なアメリカ人女性ヴァン・ホッパー夫人の付き人として、モンテカルロに滞在しているところから始まります。
そこで彼女は、1年前にヨット事故で最愛の妻レベッカを亡くしたばかりの、イギリス貴族マキシム・ド・ウィンターと出会い、恋に落ちます。身分違いの恋に戸惑いながらも、「わたし」はマキシムからのプロポーズを受け入れ、彼が所有するコーンウォール地方の大邸宅「マンダレー」の新たな女主人となるのです。
しかし、夢のような結婚生活が待っているかと思いきや、マンダレーは亡き前妻レベッカの圧倒的な影に支配されていました。屋敷の調度品から日常の習慣まで、すべてがレベッカの趣味で満たされています。そして何よりも、「わたし」の前に立ちはだかったのが、レベッカに心酔し、今もなお屋敷を取り仕切る家政婦頭のダンヴァース夫人でした。
ダンヴァース夫人の冷たく敵意に満ちた態度や、周囲から聞こえてくる完璧な女性だったというレベッカの評判に、「わたし」は日に日に自信を失い、精神的に追い詰められていきます。この世にいないレベッカへの嫉妬と劣等感に苛まれる中で、物語は後半、誰も知らなかった衝撃の事実が次々と明らかになるサスペンスフルな展開へと突き進んでいきます。
主人公は誰?主要な登場人物を紹介

『レベッカ』の物語は、個性豊かで謎に満ちた登場人物たちによって織りなされます。ここでは、物語の中心となる4人の人物を紹介します。
名前 | 人物像 |
---|---|
「わたし」 | 物語の語り手であり主人公。孤児で、ヴァン・ホッパー夫人の付き人として働いていた内気な女性。名前は最後まで明かされません。マキシムと結婚し、マンダレーの女主人となりますが、前妻レベッカの影に苦しめられます。 |
マキシム・ド・ウィンター | マンダレーの主人であるイギリス貴族。42歳。1年前に妻レベッカを亡くし、どこか陰のある人物。「わたし」と出会い再婚しますが、彼の過去には大きな秘密が隠されています。 |
ダンヴァース夫人 | マンダレーの家政婦頭。亡きレベッカを異常なまでに崇拝しており、新しい女主人である「わたし」を認めず、陰湿なやり方で追い詰めていきます。物語の不気味さを象徴する重要なキャラクターです。 |
レベッカ | マキシムの前妻。物語開始時点ですでに故人。美貌と知性を兼ね備え、誰からも愛された完璧な女性とされていますが、その実像は謎に包まれています。彼女の存在が、全編を通して物語を支配しています。 |
作者ダフネ・デュ・モーリアの生涯
『レベッカ』を生み出した作者、デイム・ダフニ・デュ・モーリア(1907-1989)は、イギリスの小説家です。彼女の作品は、ゴシックロマンの雰囲気を持ち、心理的なサスペンスに満ちていることで知られています。
恵まれた芸術的環境とコーンウォールへの愛
父は有名な俳優ジェラルド・デュ・モーリエ、祖父は風刺漫画家のジョージ・デュ・モーリエという芸術一家に生まれました。幼い頃から創作活動に親しみ、1931年に小説家としてデビューします。
彼女の人生と作品に大きな影響を与えたのが、イングランド南西部のコーンウォール地方です。デュ・モーリアはこの地を深く愛し、人生の大半を過ごしました。『レベッカ』の舞台であるマンダレーの陰鬱で美しい雰囲気も、このコーンウォールの風景から着想を得ています。
社交的な場を好まず、隠遁生活を送りながら執筆に集中したデュ・モーリア。『レベッカ』の成功後も、『鳥』や『レイチェル』など、多くの傑作を世に送り出しました。彼女の描く物語は、単なる恋愛小説やミステリーに留まらず、人間の心の奥底に潜む複雑な感情を鋭く描き出すことで、今なお世界中の読者を魅了し続けています。
美しい屋敷マンダレーのモデルはどこ?

物語の主要な舞台であり、もう一つの主人公とも言える大邸宅「マンダレー」。この美しくもどこか不気味な屋敷の雰囲気に、多くの読者が引き込まれます。では、このマンダレーにモデルは存在するのでしょうか。
結論から言うと、マンダレーは架空の邸宅です。しかし、作者のデュ・モーリアがインスピレーションを受けたとされる場所は実在します。
マンダレーのモデルは、作者が愛したコーンウォール地方にある「メナビリー邸(Menabilly House)」であると言われています。デュ・モーリアは若い頃に荒れ果てたこの屋敷を発見し、一目で恋に落ちました。その後、彼女はこの屋敷を借り上げ、修復し、実際に20年以上も住居としていたのです。
メナビリー邸は、海を見下ろす緑豊かな谷にひっそりと佇んでおり、その隔離された神秘的な雰囲気は、まさに小説のマンダレーのイメージそのものです。デュ・モーリアがこの場所で感じたであろう、自然の美しさと孤立感、そして過去の歴史が刻まれた重みが、マンダレーという架空の屋敷に生命を吹き込んだと言えるでしょう。
夢中になる!読者の感想と評価

1938年の発表以来、時代を超えて読み継がれる『レベッカ』。世界中の読者はこの物語にどのような感想を抱いているのでしょうか。寄せられた多くのレビューから、共通する評価や感想のポイントをいくつか紹介します。
多くの方が「寝食を忘れて読みふけってしまった」「ラストまで一気読みした」と語っており、その圧倒的な面白さがうかがえますね。
心理描写の巧みさとサスペンス
最も多くの読者が賞賛しているのが、主人公「わたし」の追い詰められていく心理描写の巧みさです。亡きレベッカの見えない影と、家政婦頭ダンヴァース夫人の執拗な嫌がらせによって、徐々に精神のバランスを崩していく様子は、まるで自分のことのようにハラハラすると評価されています。
そして、物語が後半に差しかかると、ロマンスや心理劇から一転、息もつかせぬサスペンスへと舵が切られます。この劇的な展開に「全く予想できなかった」「面白すぎて鳥肌が立った」という声が多数挙がっています。
登場人物への多様な意見
- 主人公「わたし」へ:序盤の気弱でオドオドした態度に「もどかしい」「イライラする」と感じる読者が多い一方で、後半での彼女の変貌ぶりに「強くなった」「凄みを感じる」と驚く声も多いです。
- ダンヴァース夫人へ:物語を代表する悪役として「とにかく怖い」「執着が異常」という感想が目立ちます。しかし、彼女のレベッカへの忠誠心を「哀れな人」と同情的に見る意見もあります。
- マキシムへ:初めは魅力的な紳士に見えますが、物語が進むにつれて「身勝手」「モラハラ気質」といった否定的な評価も少なくありません。
このように、単純な善悪では割り切れない登場人物たちの複雑なキャラクター造形が、物語に深みを与えていると言えるでしょう。
『レベッカ』小説のあらすじを深掘りする魅力

- 物語を彩るゴシックロマンの見どころ
- レベッカは悪女か?多様な作品考察
- 有名な映画と原作のストーリーの違い
- ダフネ・デュ・モーリアのおすすめ本は?
- レベッカの小説あらすじと魅力の総括
物語を彩るゴシックロマンの見どころ

『レベッカ』が単なるミステリーや恋愛小説と一線を画しているのは、「ゴシックロマン」というジャンルの特徴を色濃く反映している点にあります。この独特の雰囲気が、物語の大きな見どころとなっています。
ゴシックロマンとは、中世風の古い城や屋敷を舞台に、怪奇的・幻想的な要素や、超自然的な出来事、そして人間の内面に潜む恐怖を描く文学ジャンルです。『レベッカ』には、このジャンルの魅力的な要素が随所に散りばめられています。
- 神秘的な舞台設定:人里離れた場所に建つ、歴史ある大邸宅「マンダレー」そのものが、物語の不気味さと美しさを象徴しています。
- 見えない存在の恐怖:物語の中心にいるレベッカは、一度も姿を現しません。しかし、彼女の気配は屋敷の隅々にまで満ちており、「見えない」からこそ、その存在感は増幅され、主人公と読者に強烈なプレッシャーを与えます。
- 心理的サスペンス:幽霊が直接現れるわけではありませんが、主人公「わたし」はレベッカの幻影に苦しめられます。この内面から湧き上がる恐怖こそ、ゴシックロマンの醍醐味です。
- 隠された過去と秘密:マキシムが抱える秘密や、レベッカの知られざる素顔など、過去の出来事が現在の登場人物たちを呪縛のように縛り付けます。
これらの要素が巧みに絡み合うことで、読者はただ美しいだけのメロドラマではなく、背筋が凍るような独特の世界観に没入していくのです。
レベッカは悪女か?多様な作品考察

物語を読み終えた多くの読者が議論するのが、「レベッカは本当に悪女だったのか?」という問いです。作中、レベッカの人物像は主に夫であるマキシムの口から語られます。彼によれば、レベッカは世間の評判とは真逆の、不実で性悪な女性だったとされています。
しかし、このマキシムの証言を鵜呑みにして良いのでしょうか。ここから、多様な作品考察が生まれています。
語り手は信頼できるか?
一つの視点として、マキシムの語る言葉の信頼性を疑う読み方があります。彼はプライドが高く、支配的な一面を持つ人物です。自分の思い通りにならない活発で自立した女性であったレベッカを、彼自身の価値観で「悪女」と断罪したのではないか、という考察です。
現代の視点から見ると、レベッカの行動は「当時の家父長制社会に対する抵抗」とも解釈できます。妻や女主人という役割に縛られず、自由に生きようとした彼女の姿は、マキシムのような男性中心的な考えを持つ人物には脅威に映ったのかもしれません。
また、作中でマキシムが知的障碍者のベンに対して虐待を匂わせる描写があることから、彼の語る「真実」が全てではない可能性が示唆されています。弱い立場の人間に暴力を振るう人物が、妻について語る言葉をどこまで信じられるのか、という点は重要な考察ポイントです。
ダンヴァース夫人の視点
一方、レベッカを崇拝していたダンヴァース夫人は、彼女のことを「誰のことも愛していなかった」と語ります。これはマキシムの証言と一致する部分もありますが、レベッカの孤独や、男性社会への絶望を浮き彫りにしているとも考えられます。
結局のところ、レベッカの真の姿は誰にも分かりません。不在の人物だからこそ、彼女のイメージは関わる人々の主観によって歪められ、理想化され、あるいは貶められます。この多面的な解釈ができる点こそが、『レベッカ』が時代を超えて読者を惹きつける大きな魅力と言えるでしょう。
有名な映画と原作のストーリーの違い

『レベッカ』は何度も映像化されていますが、最も有名なのが1940年に公開されたアルフレッド・ヒッチコック監督によるモノクロ映画です。この映画はアカデミー作品賞を受賞するなど高く評価されていますが、実は原作とは決定的に異なる点があります。
これから原作を読む方、あるいは映画を観た方が原作に興味を持った場合、この違いを知っておくと、より両作品を楽しめるはずです。
最大の違いは「レベッカの死の真相」
原作とヒッチコック版映画の最も大きな違いは、レベッカがどのようにして死に至ったかという物語の核心部分です。
ネタバレを含むためご注意ください
原作では、マキシムがレベッカを殺害し、船ごと沈めたと告白します。しかし、当時のハリウッドには「ヘイズ・コード」という厳格な倫理規定があり、「犯罪者が最終的に罰せられずに幸せになる」という描写が禁止されていました。このため、ヒッチコック監督は結末の変更を余儀なくされたのです。
映画版では、レベッカの死は事故であった、という設定に改変されています。この変更により、マキシムのキャラクターが抱える罪の重さや、それを知った上で彼を支えようとする「わたし」の決意の持つ意味合いが、原作とは大きく異なってきます。
主人公「わたし」のキャラクター描写
原作の後半では、マキシムの告白を聞いた「わたし」が、それまでのおどおどした少女から、夫を守るために毅然と行動する強い女性へと劇的に変貌します。この内面的な成長が、物語の大きなカタルシスの一つです。
しかし、映画版ではこの「わたし」の変貌ぶりは控えめに描かれており、最後までどこかか弱く、マキシムに守られる存在という印象が拭えません。これもまた、両者の大きな違いと言えるでしょう。
比較項目 | 原作小説 | ヒッチコック版映画(1940年) |
---|---|---|
レベッカの死因 | マキシムによる殺害 | 事故死(設定変更) |
「わたし」の成長 | 後半で劇的に変貌し、自立した強い女性になる | 最後までか弱い印象が残る |
ラストシーン | マンダレーが燃えていることを遠くから知る | ダンヴァース夫人が放火し、屋敷が炎上する様を直接描く |
ダフネ・デュ・モーリアのおすすめ本は?
『レベッカ』を読んでダフネ・デュ・モーリアの世界に魅了されたなら、ぜひ他の作品も手に取ってみることをおすすめします。彼女の作品には、『レベッカ』と通じるテーマや雰囲気を持つ傑作が数多く存在します。
レイチェル
『レベッカ』の姉妹編とも言われる長編小説です。敬愛する従兄を死に追いやったとされる謎めいた未亡人レイチェル。主人公のフィリップは、彼女に復讐を誓いますが、その妖しい魅力の虜になっていきます。果たしてレイチェルは聖女なのか、それとも悪女なのか。最後まで真実が分からないまま、読者を翻弄するサスペンスフルな物語です。「信頼できない語り手」という点で、『レベッカ』との共通点が多く見られます。
鳥
こちらもヒッチコックによって映画化されたことで非常に有名な短編です。ある日突然、鳥たちが人間を襲い始めるという不条理な恐怖を描いています。なぜ鳥たちが凶暴化したのか、その理由は一切説明されません。日常が静かに崩壊していく過程を淡々と描くことで、人間の無力さと根源的な恐怖をあぶり出す、デュ・モーリアの真骨頂ともいえる一作です。
原野の館(旧題:埋もれた青春)
コーンウォールの荒涼とした原野に建つ不気味な宿「ジャマイカ館」が舞台のゴシック・アドベンチャー。両親を亡くした少女メアリーが叔母を頼ってこの宿を訪れますが、そこは密輸団の巣窟でした。危険な状況の中で、メアリーが自身の運命を切り開いていく姿が描かれます。『レベッカ』の「わたし」とは対照的に、意志が強く好奇心旺盛なヒロインが魅力です。
レベッカの小説あらすじと魅力の総括
- 『レベッカ』はダフネ・デュ・モーリアによるゴシックロマンの傑作
- 物語の主人公は名前のない内気な女性「わたし」
- 彼女は貴族のマキシムと結婚し大邸宅マンダレーへ移り住む
- マンダレーは亡き前妻レベッカの圧倒的な影に支配されている
- 家政婦頭のダンヴァース夫人が「わたし」を精神的に追い詰める
- 物語後半は心理劇から息もつかせぬサスペンスへと急展開する
- 見どころは巧みな心理描写と「見えない存在」がもたらす恐怖
- 「レベッカは本当に悪女だったのか」という考察が議論を呼んでいる
- 物語の舞台マンダレーのモデルはコーンウォールのメナビリー邸
- ヒッチコックによる映画版は原作とレベッカの死の真相が異なる
- この違いは当時のハリウッドの倫理規定が影響している
- 作者デュ・モーリアは芸術一家に生まれコーンウォールを愛した
- 他の代表作に『レイチェル』や『鳥』などがある
- 読者からは「一気読みした」「心理描写がすごい」との感想が多い
- 登場人物が単純な善悪で割り切れず物語に深みを与えている