第9回カクヨムWeb小説コンテストで、作家・円城塔氏が選ぶ特別賞「円城塔賞」を受賞した話題の短編集『レモネードに彗星』。その独特な世界観と美しい文章が多くの読者を魅了しています。
この記事では、レモネードに彗星のあらすじはもちろん、物語の鍵を握る登場人物や作品の見どころ、読者からの感想やレビューまで、作品の魅力を徹底解説します。また、作者である灰谷魚氏の経歴や、この作品がどこで読めるのかについても詳しく紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
- 『レモネードに彗星』の詳しいあらすじ
- 物語の魅力や読者からのリアルな評価
- 作者・灰谷魚氏の経歴と受賞歴
- 書籍の購入方法や電子書籍の情報
レモネードに彗星のあらすじと作品概要

- 短編集全体のあらすじを紹介
- 表題作のあらすじも詳しく解説
- 物語の鍵となる主な登場人物
- 作者である灰谷魚はどんな人?
短編集全体のあらすじを紹介

『レモネードに彗星』は、円城塔賞を受賞した表題作を含む、7つの短編から構成される作品集です。どの作品も読み味が全く異なり、SF、青春、恋愛、終末ものといった多彩なジャンルを横断しています。共通しているのは、少し不思議でどこか切ない、灰谷魚氏ならではの世界観です。
例えば、怪物が世界を壊し始める中で友人が宙に浮いていく「かいぶつ が あらわれた」や、個性的な同級生への憧れと嫉妬を描く「純粋個性批判」など、予想を軽々と裏切る展開が読者を待ち受けます。
対談の中で作者自身が「まるでアルバムを作るような感覚で並べた」と語るように、作品の並び順にもこだわりが感じられます。一編ずつ独立した物語として楽しむことも、短編集全体を通して一つの大きな世界観を味わうこともできる、非常に満足度の高い一冊と言えるでしょう。
表題作のあらすじも詳しく解説
表題作である「レモネードに彗星」は、14歳でスナイパーに狙撃されて命を落とした少女「私」と、その叔母との奇妙な共同生活を描いた物語です。
「私」は肉体を失いながらも意識は存在し続けており、大きな窓を通してしか叔母と対面することができません。一方、叔母は天才エンジニアであり、現在は196歳でありながら見た目は58歳という、特殊な歳の取り方をしています。彼女は常に炭酸入りのレモネードを飲んでおり、その存在は多くの謎に包まれています。
物語の重要な舞台となるのが、叔母が見る「夢」の中の世界です。なぜなら「私」は、叔母が眠っている間、その夢の中に入り込むことができるからです。現実世界では窓越しでしか会えない二人が、夢の中では直接触れ合うことが可能になります。しかし、そこで起こる出来事は、単純な再会とは言い難い、複雑でどこか暴力的な側面を帯びていくのです。
生と死、記憶と時間、愛と暴力といった深遠なテーマを、美しくも退廃的な雰囲気の中で描いた、本作を象徴する一編となっています。
物語の鍵となる主な登場人物

『レモネードに彗星』の物語、特に表題作を深く理解する上で欠かせないのが、「私」と「叔母」という二人の登場人物です。彼女たちの極めて特異な設定が、この物語のユニークな世界観を形作っています。
私 | 叔母 | |
---|---|---|
立場 | 物語の語り手 | 私の叔母であり、保護者的な存在 |
年齢 | 14歳で死亡。現在は29歳相当。 | 196歳(ただし肉体の稼働時間は58年) |
状態 | 肉体を持たず、意識だけの存在。窓を通してのみ叔母と対話可能。 | 天才エンジニア。時間を不規則に移動し、特殊な歳の取り方をする。 |
特徴 | 死んでからの経験も増え続けている。叔母の夢に入り込める。 | 常に炭酸入りのレモネードを飲んでいる。多義的でミステリアスな人物。 |
このように、二人は一般的な人間とはかけ離れた存在です。だからこそ、彼女たちの関係性や交わされる会話は、読者に新鮮な驚きと深い問いを投げかけます。二人の歪でありながらも美しい関係性が、この物語の最大の魅力の一つです。
作者である灰谷魚はどんな人?
作者の灰谷魚(はいたに・さかな)氏は、本作で待望のデビューを果たした、今最も注目される作家の一人です。実は、その経歴は決して平坦なものではありませんでした。
2014年頃からWebを中心に活動を始め、その才能は早くから注目されていました。しかし、過去に書籍化の話が直前で中止になるという経験を3回以上も経験しています。2018年には「第3回ショートショート大賞」で大賞を受賞したものの、版元の業績不振により、またしても出版が白紙になるという不運に見舞われます。
「受賞して本が出ることになったのに、直前で出版社が終わる」このパターンを2回も経験するなんて、信じられないですよね。ご本人はnoteで当時の心境を赤裸々に綴っています。
度重なる不運に「もう何かを書いて出版する時代でもないかな」と諦めかけていた中、転機となったのが「円城塔賞」でした。書籍化や賞金が目的ではなく、「憧れの円城塔先生に確実に読んでもらえる」という一点に惹かれて応募し、見事に大賞を受賞します。
この受賞がきっかけとなり、KADOKAWAからの出版が決定。まさに、実力と執念が掴み取ったデビューと言えるでしょう。ちなみに、普段は書店員として働いているという一面も持っています。
評価は?レモネードに彗星あらすじ以外の魅力

- 独特な文体と世界観が見どころ
- 読者からの感想レビューを紹介
- 単行本や電子版はどこで読める?
- 総まとめ!レモネードに彗星あらすじ
独特な文体と世界観が見どころ
『レモネードに彗星』の最大の魅力は、その独特な文体と世界観にあります。選考委員である円城塔氏が「擦れてるように見えるけど新しい」「コントロールされていて、むしろ情感や詩情を喚起するために機能している」と評したように、計算された文章が読者を物語の世界へ引き込みます。
作者自身も「説明しすぎない、雰囲気に委ねるような書き方が好き」と語っており、意図的に残された「アマチュアっぽさ」が、かえって新鮮な読書体験を生み出しているのです。Webでの執筆経験から培われた、スクロールを意識したリズム感やテンポの良さも特徴と言えるでしょう。
「炭酸の粒って、なんだか星みたいね」「レモネードに彗星」といった、詩的で美しい比喩表現が作品の随所に散りばめられており、単なる物語の筋を追うだけではない、文学的な楽しみを存分に味わうことができます。
読者からの感想レビューを紹介

本作は多くの読書家から高い評価を受けていますが、その独特な作風から、評価が分かれる側面もあるようです。ここでは、寄せられた感想やレビューを多角的に紹介します。
高評価の感想
好意的な意見で特に目立ったのは、唯一無二の世界観と文章の美しさです。「独特の比喩表現がクセになる」「SF的な設定ながら会話文は軽やかで読みやすい」といった声が多く、難解さと軽やかさが両立したバランス感覚を評価する感想が見られました。
また、テーマ性については「SFというよりは、マイノリティとしての孤独やモラトリアムを描いた青春小説として心に響いた」という意見もあり、特に思春期の複雑な感情を経験した読者からの共感を集めています。
さらに、「デリケートな人間関係や感情の機微を描くのが上手い」という評価も多く、収録作の中でも特に「純粋個性批判」や「新しい孤独の様式」は、その切実な感情描写で多くの読者の心を掴んでいるようです。
補足:こんな人におすすめ
レビュー全体を見ると、『レモネードに彗星』は村田沙耶香作品や、近年人気の韓国SF文学が好きな読者に特に響く傾向があるようです。SF的な設定の中に、思春期の揺れ動く感情や人間関係の断絶といった普遍的なテーマを描いているため、純文学ファンからの支持も厚いと言えるでしょう。
評価が分かれる点のレビュー
一方で、その独特さゆえに「難解でよく分からなかった」「わたあめみたいで掴みどころがなかった」という感想も一部で見られます。物語の細部までを明確に説明しない作風のため、読者が能動的に世界観を解釈する必要がある点に、戸惑いを感じる方もいるようです。
また、世代や経験によっても感じ方が変わるようで、「もっと若い頃、10代や20代のうちに読んでいれば深く刺さったかもしれない」といった、少し距離を置いて作品を評価する声もありました。さらに、冷静な視点から「物語の核となる設定に、どこかで見たような既視感を覚えた」という意見も少数ながら存在します。
注意点:読む人を選ぶ可能性
これらのレビューから、はっきりとした結末や分かりやすいストーリーを求める読者には、少し物足りなく感じられる可能性があることがわかります。しかし、その答えの出ない「分からなさ」や、読者に解釈を委ねる余白こそが本作の魅力である、と評価する声が多数派であることも事実です。
単行本や電子版はどこで読める?
『レモネードに彗星』は、KADOKAWAより単行本と電子書籍が発売されています。全国の書店や、Amazon、楽天ブックスなどの各種オンラインストアで購入することが可能です。
すぐに読みたい方や、手軽に持ち運びたい方には電子書籍版がおすすめです。各電子書籍ストアで取り扱いがありますので、普段利用しているプラットフォームをご確認ください。
書籍情報 | |
---|---|
書名 | レモネードに彗星 |
著者 | 灰谷 魚 |
発売日 | 2025年7月1日 |
出版社 | KADOKAWA |
ISBN | 978-4-04-116364-1 |
定価 | 1,815円(本体1,650円+税) |
レモネードに彗星のあらすじについて総括
この記事で解説した『レモネードに彗星』のあらすじや魅力を、最後にリストでまとめます。
- 『レモネードに彗星』は灰谷魚のデビュー短編集
- 第9回カクヨムWeb小説コンテスト「円城塔賞」受賞作
- SFや青春ものなど、多彩な7つの短編を収録している
- 表題作は死んだ少女「私」と謎多き「叔母」の物語
- 二人の関係は現実の「窓」と「夢」の世界で描かれる
- 物語の中心となる登場人物は「私」と「叔母」の二人
- 「私」は14歳で死んだ後も意識だけが存在する少女
- 「叔母」は196歳の天才エンジニアで時間を超える存在
- 作者の灰谷魚氏は度重なる出版中止を乗り越えた苦労人
- 「憧れの円城塔氏に読んでもらいたい」という思いで賞に応募した
- 独特の比喩表現と詩的で美しい文体が作品の大きな見どころ
- 純文学や韓国SFファンから特に高い評価を得ている
- 一方で、作風が難解だと感じる読者もいる
- 単行本と電子書籍がKADOKAWAから発売中
- これからが期待される新時代の才能による傑作短編集