「たえまない光の足し算」あらすじと芥川賞候補作の魅力

「たえまない光の足し算」あらすじと芥川賞候補作の魅力 あらすじ・要約

日比野コレコさんの最新作「たえまない光の足し算」は、美容外科のポスターの言葉に心を動かされた主人公が、自らの身体への執着と期待を抱えながら異食の道化師として活動を始める物語です。この作品は、美とは何か、身体をどう扱うべきかという深い問いを投げかけ、読者の心に強烈な印象を残します。

また、本作が芥川賞候補に選出されたことで、その文学的価値がさらに注目されています。この記事では、「たえまない光の足し算」のどんな内容なのか、あらすじから始まり、主な登場人物や見どころ、そして作者のユニークな背景までを詳しく解説していきます。

記事のポイント
  • 物語の全体像と独特の世界観
  • 登場人物が持つ意味と役割
  • 作品の文学的な魅力と現代社会への問いかけ
  • 作者日比野コレコの個性と今後の展望

「たえまない光の足し算」のあらすじと芥川賞候補作としての魅力

  • どんな内容?『たえまない光の足し算』あらすじ
  • 主な登場人物と物語の象徴
  • 作品の豊かな見どころとは

どんな内容?『たえまない光の足し算』あらすじ

日比野コレコさんの小説「たえまない光の足し算」は、美容外科のポスターに書かれた「痩せたら何もかもが変わる!」という言葉に強く惹かれた主人公・薗(その)の物語です。彼女は自身の身体に対する強いこだわりと、それによって人生が好転するという期待を胸に、「異食の道化師」という特異な活動を開始します。

異食とは、通常では考えられないような食べ方や物質を摂取する行為を指し、薗はこのパフォーマンスを通じて自身の身体を公衆の前に晒します。この異様な見世物を通して、薗は「美しさとは何か」そして「身体をどのように扱うべきか」という根源的な問いに直面していくことになります。

物語は、大阪の街を舞台に展開されます。特に時計塔の描写は重厚で、現代社会が抱える不安や虚無感を象徴しているように感じられます。物語全体を通して幻想的でありながらも緊張感に満ちた展開が続き、中盤に登場する職人のような人物の出現により、事態はさらに劇的で濃密な様相を呈していきます。

そして、性や生、死といった人間存在の根幹に関わるテーマが、鋭い視点で掘り下げられ、読者の内面へと深く浸透していく構成です。

この作品の結末は、一見するとハッピーエンドのように映ります。しかしながら、読み終えた後には冷ややかで、心に緊張感とざらつきが残るという独特の構成になっています。終始、強迫観念と自己表現の狭間で揺れ動く薗の姿が、生々しくスリリングに迫ります。

読者は物語のラストを迎えた後も、思考や感情が完全に抜けきらないような感覚を抱き続けることでしょう。この作品は、美を追求し、自らを変容させようとする現代人の内面を、斬新な設定と鋭い筆致で深く掘り下げた、刺激的かつ挑発的な短編文学作品と言えます。

主な登場人物と物語の象徴

「たえまない光の足し算」には、物語を織りなす上で重要な役割を果たす複数の登場人物や象徴的な存在が登場します。

薗(その)

本作の紛れもない中心人物です。「痩せたら何もかもが変わる!」という美容外科のポスターの言葉に強く心を動かされた彼女は、自らの身体を公衆の目に晒す異食パフォーマーとしての道を選びます。彼女は異食への尋常ならざる執念、自己を変容させたいという強い欲望、そして「美しさとは何か」という問いに対する強迫観念に取り憑かれています。都市空間の中で自分を曝け出しながら、生と死の境界線を常に揺れ動きつつも、自己の信念を貫こうとする彼女の姿は、読者に強い印象を与えます。

職人のような謎の人物

物語の中盤で現れるこの人物は、薗の身体やその行為に深く関与してきます。彼の存在が物語全体の緊迫感を一層高め、物語の展開を急速に加速させる重要なきっかけとなります。この人物は、その実在性よりも象徴的な意味合いを強く帯びたキャラクターとして描かれています。彼が薗の前に現れることで、薗が抱える強迫観念がさらに顕在化され、物語に深みを与えています。

その他複数人(三人の視点とも)

作品中には、「三人の視点から」という描写も見られます。これは、薗以外にも多様な価値観や美意識を持つ登場人物たちが存在することを示唆しています。これらの人物たちは、薗とは対比的な関係性を持つことで、作品のテーマである「美とは何か」「身体とは何か」という問いに多層的な側面をもたらします。そのため、読者は作品を通して様々な感情を呼び起こされ、テーマの奥行きを深く感じることができます。

都市空間・時計塔

人間の身体と同列に扱われる「登場者」として、大阪の都市空間、特に巨大な時計塔が描かれています。その陰鬱で象徴的な描写は、作品全体に不穏な雰囲気と批評的な視点を与えています。都市の風景や時計塔は、現代社会の不安や虚無感を象徴し、物語の背景として深い意味合いを持っています。

作品の豊かな見どころとは

「たえまない光の足し算」は、読者に多大なインパクトを与える多くの見どころを持っています。その中でも特に注目すべき点をいくつかご紹介します。

「異食の道化師」という独自の設定

この作品の最大の魅力の一つは、「異食の道化師」という他に類を見ない斬新な設定です。異食という行為をパフォーマンスとして扱い、自身の身体を演じ、晒すパフォーマーとしての実存を描いています。これは、まさに「光を足し続ける」行為のメタファーとも言えるでしょう。この設定は、読者に強烈な印象を残し、物語の世界観に深く引き込みます。

「美」とは何かへの鋭い問い

「痩せることで世界が変わる」という言葉に薗が強く惹かれた背景には、「美しい身体こそ価値がある」という現代社会に蔓延する偏見と、それに対する自己信仰が透けて見えます。この作品は、美の追求という行為を通して、現代社会の価値観や、SNSなどで見られる自己表現のあり方を鋭く射抜いています。美醜の基準、身体と精神の関連性、そして自己肯定感といった普遍的なテーマが深く掘り下げられています。

緊張感と幻想の融合した筆致

日比野コレコさんの筆致は、幻想文学のような描写が特徴的です。しかし、単なる幻想に留まらず、読者にリアルな肉体感覚と心理描写が伝わるような筆力を持っています。物語は最初から最後まで張り詰めたテンションで展開され、読者はその緊張感から逃れることができません。この独特の筆致が、作品に唯一無二の深みと魅力を与えています。

象徴として描かれる都市と時計塔

大阪の都市空間、そして巨大な時計塔は、単なる舞台装置ではありません。これらは、万博や太陽の塔といった大阪の歴史的背景とも重なり合い、読者が持つ現実意識を揺さぶる象徴として機能しています。都市の陰鬱な雰囲気や時計塔の存在感は、作品全体に批評的な視座を付与し、物語のテーマをより深く掘り下げています。読み終えた後に残る「ぬぐえないざらつき」や、「異食」という身体的なメタファーが示す現代の生と表現への問いかけが、この作品の最大の魅力と言えるでしょう。


『たえまない光の足し算』芥川賞候補に選出!作者の横顔

  • 芥川賞候補作としての評価
  • 作者のプロフィールと作家性

芥川賞候補作としての評価

日比野コレコさんの「たえまない光の足し算」は、第173回芥川賞の候補作に選出され、その文学的価値が広く認められました。芥川賞は純文学の登竜門として知られる権威ある文学賞であり、この作品が候補となったことは、日比野さんの作家としての才能と将来性を示すものに他なりません。

今回の第173回芥川賞では、グレゴリー・ケズナジャットさんの「トラジェクトリー」、駒田隼也さんの「鳥の夢の場合」、向坂くじらさんの「踊れ、愛より痛いほうへ」、そして日比野コレコさんの「たえまない光の足し算」の計4作品が候補に選ばれました。

駒田さんと日比野さんは今回が初の候補入りとなります。2017年の第157回以来、候補作が4作品となるのは異例であり、戦後最少の数となっています。これは、選考委員が厳選した精鋭揃いの顔ぶれであったことを示していると言えます。

「美容外科のポスターに啓示を受け、異食の道化師になる薗の姿が胸を打つ」といった評があるように、この作品は現代における価値観と自己の問いを深く掘り下げた内容として高く評価されています。身体と美、そしてそれらを巡る表現というテーマが、異食という斬新な手法を通じて描かれている点が、特に注目を集めています。

作者のプロフィールと作家性

日比野コレコさんは2003年生まれ、奈良県出身で現在は大阪府に在住しています。河出書房新社が主催する文学賞である「文藝賞」に投稿し、2022年に『ビューティフルからビューティフルへ』で第59回文藝賞を受賞し、華々しいデビューを飾りました。その後、2023年には『モモ100%』を刊行、さらに2024年には共著『友だち関係で悩んだときに役立つ本を紹介します。』を発表するなど、精力的に作品を発表しています。

彼女の作家性は、文藝賞受賞作に見られるような鋭利な表現と、ラップや音楽、詩的な感覚を作品に取り込んだ独特のスタイルにあります。そのため、多くの読者や評論家から注目を浴びています。若くして、国際的な感性豊かな文章を体現しており、短歌や詩との対談経験も豊富であるため、言葉の実験者としての素地を強く持っていると言えるでしょう。

10代でデビューした彼女の才能は、「言葉を異化するパンチライン」と評されることもあります。多角的な創作領域を駆け巡ることで、日本の文学界に新たな地平を切り拓いている作家です。詩や詩歌、短歌文化への関心も非常に高く、現代詩と小説の境界を横断するような作品を生み出す作家として、今後の動向から目が離せません。

要するに、日比野コレコさんは2000年代生まれの若手作家でありながら、文学の力をもって現代社会に鋭い問いを投げかける才能の持ち主です。特に、今回芥川賞候補となった「たえまない光の足し算」は、身体、美、表現という三つの要素を異食という手法で鮮やかに描き切った異色作として評価されています。言葉の実験としても非常に高い評価を受けており、次世代文学を牽引する存在として大いに注目を集めています。

『たえまない光の足し算』あらすじと芥川賞のまとめ

今回の記事の内容をまとめます。

  • 「たえまない光の足し算」は美容外科のポスターに触発された主人公薗の物語
  • 薗は「異食の道化師」として身体を晒し、美とは何かを問い続ける
  • 物語は大阪の都市空間と時計塔が重要な象徴として描かれている
  • 職人のような謎の人物の登場が物語の展開を加速させる
  • 性や生、死といったエッジの効いたテーマが深く探求されている
  • 結末は一見ハッピーエンドだが、冷たさと緊張感、ざらつきが残る
  • 終始、主人公の強迫観念と自己表現の葛藤が生々しく描かれる
  • 読後も思考や感情が抜けきらない独特の余韻がある作品
  • 「異食の道化師」という独自の設定が強烈な印象を与える
  • 「美」とは何かという現代的な問いかけが鋭く投げかけられる
  • 幻想とリアルが融合した緊張感あふれる筆致が特徴
  • 日比野コレコは2003年生まれの若手作家で、文藝賞受賞者
  • ラップや詩的な感覚を取り入れた独特のスタイルが評価されている
  • 『たえまない光の足し算』は芥川賞候補に初めて選出された
  • 身体、美、表現を異食という手法で描いた異色作として注目されている
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