鳥山まこと『時の家』あらすじと感想｜第174回芥川賞候補作を解説

こんにちは。あらすじブックマーク、管理人の「おうみ」です。

第174回芥川賞候補作として注目を集めている鳥山まことさんの『時の家』ですが、タイトルから受ける静謐な印象や建築士である著者ならではの視点に興味を持っている方も多いのではないでしょうか。文学賞の候補作と聞くと少し難解なイメージがあるかもしれませんが、この作品は家という身近な存在を通して描かれる記憶の物語であり、多くの人の心に深く響く内容となっています。

今回はネタバレを気にせず作品の雰囲気を掴みたい方や読者の感想を知りたい方に向けて、物語の導入部分や登場人物の魅力について分かりやすくご紹介していきます。

鳥山まこと『時の家』あらすじと概要

まずは、話題の本作がどのような作品なのか、基本的な情報と物語の導入部分について解説していきます。築40年を超えた「ある家」を舞台に繰り広げられる、記憶と時間の物語の全体像を掴んでいきましょう。

第174回芥川賞候補の話題作

2025年、文芸界で大きな注目を集めているのが、鳥山まことさんの著書『時の家』です。本作は第47回野間文芸新人賞を受賞したのち、第174回芥川賞の候補作にも選出されました。

著者の鳥山まことさんは、1992年生まれの作家でありながら、現役の建築士としても活動されているという異色の経歴の持ち主です。ご自身が建築のプロフェッショナルであるからこそ描ける、建物の細部へのこだわりや、素材ひとつひとつに対する愛着が、文章の随所に散りばめられています。

著者のプロフィールと経歴
2023年に「あるもの」で第29回三田文學新人賞を受賞してデビュー。建築士としての視点を活かした描写は「建築文学」とも評され、本作『時の家』でその才能を大きく開花させました。

『時の家』は、単なる家族小説や青春小説といった枠には収まらない、独特の空気感を持っています。静謐で美しい日本語で綴られる世界観は、多くの読者を魅了しており、純文学ファンならずともチェックしておきたい一冊です。

記憶をスケッチする物語のあらすじ

物語の舞台となるのは、築40年を過ぎ、今は空き家となって解体を待つ一軒の「家」です。主人公である青年は、かつてこの家に出入りしていた人物。彼は解体を控えたこの家に戻り、部屋の隅々、床の軋み、柱の傷、壁の漆喰などを丁寧にスケッチしていきます。

この物語の最大の特徴は、青年が家の一部をスケッチすることで、その場所に刻まれた過去の住人たちの記憶が鮮やかに立ち上がってくるという構造にあります。青年が目を凝らし、手を触れることで、そこにあったはずの生活や感情が呼び起こされるのです。

物語のポイント

• 現在は空き家となっている「家」が舞台
• 青年によるスケッチを通して、過去の時間が再生される
• 家そのものが語り部のような役割を果たしている側面も

ただ過去を回想するだけでなく、現在進行形で家と向き合う青年の視点と、家に染み付いた過去の時間が交錯しながら、物語は静かに進んでいきます。

家と記憶を巡る登場人物

『時の家』には、この家に関わってきた複数の人々が登場します。彼らは直接的に会話を交わすわけではありませんが、家という空間を通して深く繋がっています。

設計者であり最初の住人：藪さん

この家を設計し、最初に住んでいた人物です。建築に対して並々ならぬ情熱と愛情を持っており、家の細部に至るまで彼の魂が込められています。物語の中で、家がどのように愛され、作られたのかを知るキーパーソンと言えるでしょう。

その後の住人たち

藪さんの後に住んだ「緑」や、最後の住人となった「圭さんと脩さん」夫婦など、時代ごとに異なる住人たちが登場します。震災の記憶や、感染症の流行、そして別離など、それぞれの時代背景とともに彼らの人生が描かれます。

訪問者：青年

本作の視点人物の一人であり、この家の最期を看取るために訪れた存在です。彼は住人ではありませんでしたが、少年時代にこの家と関わりがあり、今はスケッチブックを手に、家の記憶を記録しようとしています。

人物名	家との関わり
藪さん	設計者であり、最初の住人。家に魂を込めた。
緑	藪さんの次に住んだ人物。死者に対する独特の感覚を持つ。
圭さんと脩さん	最後の住人夫婦。現代的な問題や夫婦関係が描かれる。
青年	かつての訪問者。現在は家の記憶をスケッチしている。

『時の家』あらすじと読後の魅力

ここからは、あらすじだけでは伝わりきれない、本作ならではの文学的な魅力や、実際に読んだ方々の熱い感想について深掘りしていきます。なぜこれほどまでに評価されているのか、その理由を見ていきましょう。

建築文学としての見どころ

私がこの作品を読んで特に感動したのは、その圧倒的な「描写力」です。著者が建築士であることは前述しましたが、それが単なる知識の披露ではなく、文学的な表現として昇華されている点が素晴らしいのです。

例えば、柱の籐巻きひとつ、屋根の勾配、壁の染み、床材の素材感など、家を構成する要素への眼差しが非常に温かく、そして緻密です。「エモい」という言葉では片付けられない、物質への敬意と愛情が文章から溢れ出ています。

ここが見どころ！

• 専門用語が自然な形で物語に溶け込んでいる
• 「家」を擬人化するような、独特の視点移動
• 静けさの中に、人間の生々しい感情や歴史が刻まれている

読んでいるうちに、自分自身がかつて住んでいた家や、祖父母の家など、記憶の底にある「空間」を思い出さずにはいられなくなるでしょう。建築と文学が融合した、新しい読書体験ができる作品です。

共感を呼ぶ読者の感想

ネット上やSNSでも『時の家』に対する感想が多く寄せられています。派手な展開やどんでん返しがあるわけではありませんが、静かに心に染み入るような読後感が支持されているようです。

特に多かったのが、「自分の過去と重ね合わせてしまった」という声です。

「子供の頃に住んでいた家をGoogleマップで探した時のことを思い出した」
「自分が住んできた家や訪れた家をあれこれ思い出して切なくなった」

このように、読者自身の記憶の扉を開く鍵のような作品になっています。また、文章の美しさについても評価が高いです。

読者の声ピックアップ

• 「静謐で美しい文章。肌が粟立つような感覚」
• 「一気読みさせてくれないというのは、純文学において賛辞」
• 「メメントモリ（死を想え）という言葉が浮かんだ」

一方で、「読点や行空けが少なくて少し読みづらい」「建築用語が難しい」と感じた方もいるようですが、それも含めて「作者の計算された文体である」と好意的に受け止める意見が多く見られました。

『時の家』あらすじ情報のまとめ

ここまで、鳥山まことさんの『時の家』について、あらすじや見どころをご紹介してきました。最後に、この作品の魅力を改めて振り返っておきたいと思います。

『時の家』はこんな人におすすめ

• 静かで美しい日本語の文章に浸りたい人
• 建築や家、空間に対する描写に興味がある人
• 自分自身の思い出や、過去の時間と向き合いたい人
• 第174回芥川賞の行方に注目している人

『時の家』は、解体を待つ家を通して、そこに住んでいた人々の息遣いや、流れ去った時間の尊さを描いた傑作です。あらすじを読んで気になった方は、ぜひ実際に手に取って、その緻密に積み上げられた言葉の建築物に触れてみてください。きっと、あなたの中にある大切な「家」の記憶も、ふと蘇ってくるはずです。