こんにちは、あらすじブックマークのおうみです。
辻堂ゆめさんの『残火』は、14年前の産院放火殺人事件をきっかけに人生を変えられた人たちを描く警察小説です。物語の入口だけを見ると「加害者の息子が被害者遺族を誘拐する」という非常に分かりやすい事件なのですが、読み進めるほど、その構図が簡単な善悪では片づけられなくなっていきます。
この記事では、これから『残火』を読む方でも楽しみを失わないよう、結末の核心には触れずにあらすじ、登場人物、前作『トリカゴ』との関係、タイトルに込められた意味、作品の読みどころを紹介します。事件そのものよりも「事件のあとを生きる人」に目を向けた作品なので、社会派ミステリーが好きな方にはかなり気になる一冊だと思います。
- 『残火』のネタバレなしのあらすじ
- 主要人物と事件の関係
- 『トリカゴ』を先に読む必要があるか
- タイトルの意味と作品の見どころ
残火のあらすじと登場人物を紹介
まずは『残火』がどんな小説なのか、物語の入口から見ていきます。事件は14年前の放火殺人と現在の誘拐事件が結びつくところから始まりますが、本作で本当に気になるのは「誰がやったのか」よりもなぜ今になってこの事件を起こしたのかという部分です。
残火の基本情報
『残火』は辻堂ゆめさんによる長編ミステリーで、東京創元社から2026年8月に刊行されました。ジャンルは国内ミステリ、警察小説。2021年刊行の『トリカゴ』に登場した刑事たちが再び事件に挑みます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | 残火 |
| 著者 | 辻堂ゆめ |
| 出版社 | 東京創元社 |
| 刊行 | 2026年8月 |
| ジャンル | 警察小説・ミステリー |
| 主な刑事 | 森垣里穂子、羽山圭司 |
出版社は本作を『トリカゴ』の刑事たちが再登場する作品として紹介していますが、事件そのものは独立しています。なので、前作を読んでいないことを理由にためらう必要はありません。(出典:東京創元社『残火』)
『残火』から読み始めても物語は理解できます。一方で、森垣里穂子と羽山圭司という刑事を以前から知っていると、二人が事件とどう向き合うのかをもう一段楽しめます。

『残火』をこれから読むなら、紙の単行本と電子書籍のうち、自分が読みやすい形式を選んで手元に置いておくと読み進めやすいでしょう。
14年前の放火殺人が発端
物語の根にあるのは、14年前に起きた産院放火殺人事件です。その事件によって命を奪われた人がいる一方、犯人の家族もまた、その後の人生を事件から切り離せなくなっていました。

現在になり、当時の被害者遺族3人が誘拐される事件が発生します。容疑者として浮かぶのが湊川潤。彼は14年前の放火殺人事件を起こした加害者の息子です。被害者側から見れば、犯人の家族が遺族を狙ったように見えるため、最初に思い浮かぶのは復讐や逆恨みでしょう。
ところが、湊川は比較的早い段階で警察に身柄を確保されます。それでも誘拐事件は終わりません。誘拐された人たちはどこにいるのか、湊川は単独で動いたのか、そもそも彼は何を目的としているのか。「犯人らしき人物を捕まえたのに、肝心の事件が見えてこない」という不穏さが、この物語をぐいぐい前へ進めます。
さらに物語は警察側だけでなく、監禁された側を含む複数の視点で進みます。ひとつの出来事を別の立場から見ることで、さっきまで確かだと思っていたものの見え方が変わっていく。ここが『残火』の面白いところです。
湊川潤が語る加害者家族の人生
取り調べを担当するのは、警視庁の羽山圭司と高尾署の森垣里穂子です。しかし、湊川は誘拐事件の核心を素直に話すわけではありません。むしろ、自分が加害者家族としてどんな人生を歩んできたのかを語り続けます。

父親が重大事件を起こしたという事実は、子ども自身が選んだものではありません。それでも名字、家族関係、周囲の視線、将来の仕事、人間関係など、生活のあちこちに事件の影が残っていきます。本作は、加害者本人の責任と、その家族が背負わされるものを同じものとして扱ってよいのかを読者に考えさせます。
一方で、被害者遺族の苦しみが小さく描かれるわけでもありません。大切な家族を失った側にとって、事件は年月がたてば終わるものではないからです。加害者家族と被害者遺族のどちらがより苦しいのかを競わせるのではなく、同じ事件から生まれた別々の痛みを並べて見せる。この距離感が本作の大切な部分だと感じました。
◆おうみのワンポイントアドバイス
『残火』は「加害者家族にも事情がある」という一方向の話ではありません。被害者遺族、加害者家族、刑事、それぞれが知っている事実と感情に差があります。誰か一人の言葉だけで事件全体を決めつけずに読むと、この作品の仕掛けがより見えてきますよ。
森垣里穂子と羽山圭司
捜査の中心となる森垣里穂子と羽山圭司は、前作『トリカゴ』から続いて登場する刑事です。『残火』では、この二人だけの視点に固定せず、事件に関わる複数の人物を通して真相へ近づいていきます。
森垣は、事件を解決する警察官としての役目を果たしながらも、目の前の人の事情や、その後の人生まで無視できない人物として描かれます。羽山もまた、表面だけでは判断できない事件に向き合う存在です。捜査が進むほど「事実を知ること」と「人を理解すること」は同じではないと感じさせられます。
ここで効いてくるのが、湊川の語りです。警察にとって必要なのは誘拐事件の情報ですが、湊川が話したいのはそれだけではありません。捜査する側と語る側の目的がずれたまま会話が続くため、取り調べの場面にも独特の緊張感があります。
残火のあらすじから読む見どころ
『残火』は事件の結末だけを追うより、「なぜこの人物はそう考えたのか」「自分はどの情報を真実だと思い込んでいたのか」を意識して読むと印象が大きく変わります。ここからはネタバレを避けながら、作品を読む前に知っておきたいポイントを見ていきます。
トリカゴ未読でも大丈夫
『残火』は『トリカゴ』の続編にあたりますが、前作の事件を知らなければ理解できない作りではありません。東京創元社も、事件は独立しており『トリカゴ』のネタバレもないため、『残火』から楽しめると案内しています。
なので、今回の「加害者家族と被害者遺族」というテーマに惹かれたなら、先に『残火』を選んで問題ありません。逆に、刑事たちの人物像を刊行順に追いたい方は『トリカゴ』から入るといいでしょう。
読む順番に迷うなら、人物を順番に追いたい人は『トリカゴ』→『残火』、今回の事件だけを早く読みたい人は『残火』から、という選び方で大丈夫です。
森垣里穂子と羽山圭司の最初の事件も知りたい方は、前作『トリカゴ』をあわせて読むと人物への親しみが増します。
タイトル残火が示すもの
「残火」は、燃えきらずに残っている火を思わせる言葉です。本作では、この題名が14年前の事件と現在をつなぐ象徴になっています。
事件そのものは、警察が犯人を捕まえ、裁判が終われば社会的には一区切りつきます。しかし、家族を失った人の悲しみや、加害者の家族に向けられる視線まで、その日を境に消えるわけではありません。表面上は鎮火していても、心の奥や人間関係の中では火種が残り続ける。『残火』という短い題名には、そんな感覚があります。

辻堂ゆめさん自身も刊行時の対談で、事件が解決したあとにも憎しみや悲しみが残り、周囲の言葉によって再び燃え上がることがある、という趣旨を語っています。つまり本作の「火」は、14年前の放火そのものだけを指す言葉ではありません。(出典:Real Sound 辻堂ゆめ『残火』刊行対談)
この意味を知ってから読むと、過去の事件、現在の誘拐、登場人物の言葉が一本につながって見えてきます。題名が最後にもう一度効いてくるタイプの小説が好きな方には、かなり相性がいいでしょう。
どんでん返しだけでは終わらない
『残火』は社会的なテーマを扱う作品ですが、説教だけで進む小説ではありません。誘拐された人たちの行方、湊川の目的、事件の背景にいる人物、過去と現在のつながりなど、ミステリーとして追いたくなる謎が次々に置かれています。
特に意識したいのが読者自身の先入観です。「加害者の息子が被害者遺族を誘拐した」と聞けば、多くの人はある程度の物語を頭の中で作ってしまいます。しかし、その最初の理解が本当に正しいのか。誰かの証言を聞いたことで、別の思い込みに置き換わっていないか。本作はそこを何度も揺さぶってきます。
著者は対談で、一つの出来事でも当事者が複数いれば見えているものは違い、「真実」と断言すること自体に危うさがあるという考えを語っています。だからこそ、単純な一回のどんでん返しで終わるのではなく、真実が見えたと思ったところから、さらに人物の見え方が変わっていく構成になっています。
残火をおすすめしたい人
『残火』が特に合いそうなのは、犯人当てだけではなく、事件のあとに残る人間関係まで描くミステリーが好きな方です。警察小説らしい捜査の緊張感がありながら、被害者と加害者という二つの言葉だけでは分け切れない人間の事情にも踏み込みます。
また、ニュースやSNSで事件を知ったとき、限られた情報から無意識に人物像を作ってしまうことがありますよね。本作は、まさにその感覚を小説の仕掛けとして使っています。読んでいる途中で「自分も勝手に決めつけていたかもしれない」と気づく瞬間があるかもしれません。
反対に、軽い謎解きだけを気楽に楽しみたいときには、テーマの重さが気になる可能性があります。家族を失うこと、加害者の家族として生きること、長い年月を経ても消えない感情が中心にあるため、読後にすっきり忘れられるタイプの作品ではありません。その余韻まで含めて読む小説です。
残火に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 『残火』はどんなあらすじですか?
A. 14年前の産院放火殺人事件の被害者遺族3人が誘拐され、その容疑者として加害者の息子・湊川潤が浮かぶところから始まります。湊川は逮捕されたあとも事件の核心を語らず、刑事の森垣里穂子と羽山圭司が彼の目的と過去を追っていきます。
Q2. 『残火』は『トリカゴ』の続編ですか?
A. 森垣里穂子と羽山圭司が再登場するためシリーズ作品としてつながっています。ただし事件は独立しているので、『残火』から読んでも内容を理解できます。
Q3. 『残火』というタイトルにはどんな意味がありますか?
A. 14年前の事件が終わったあとも、関係者の中に悲しみや憎しみが残り続ける様子を、消えきらない火になぞらえた題名と考えると分かりやすいです。物理的な放火だけでなく、事件後も残る感情が作品全体のテーマになっています。
Q4. 『残火』はどんな人におすすめですか?
A. 社会派ミステリー、警察小説、伏線が後半でつながる作品が好きな方におすすめです。事件の真相だけでなく、被害者遺族と加害者家族がその後どう生きるのかまで考えたい方にも向いています。
残火のあらすじを振り返る
『残火』のあらすじを短くまとめると、14年前の産院放火殺人事件の被害者遺族が誘拐され、加害者の息子・湊川潤をめぐって刑事たちが事件の本当の目的を追う物語です。
ただ、この一文だけでは本作の魅力は収まりません。被害者遺族と加害者家族、捜査する刑事、監禁された人たち。それぞれが見ている景色が少しずつ違うため、物語が進むたびに「自分が真実だと思っていたもの」が揺れていきます。
そして、事件が解決すればすべてが元通りになるわけではありません。過去から残る感情は消えず、人の言葉や社会の視線によって再び火がつくこともある。だからこそ『残火』という題名が最後まで残ります。
◆おうみのワンポイントアドバイス
私はこの作品を、犯人を当てるだけのミステリーではなく「人はどこまで他人の人生を知ったうえで判断できるのか」を考える物語として読むと面白いと思います。結末の情報を入れず、まずは湊川の言葉に自分がどう反応するのかを確かめながら読んでみてください。
